妖しく燃ゆる絵の饗宴 -「あやしい絵」展 / 大阪歴史博物館

§ 「あやしい絵」展について

東京会場から大阪歴史博物館に巡回してきた特別展「あやしい絵」展。

前期と後期で展示替えされるので、早速前期を鑑賞してきました。
※展示会場内の写真はありませんがネタバレしてますのでご注意ください。

幕末〜昭和の絵画に秘める「あやしさ」をテーマに、
その不可思議な魅力に呑み込まれるような作品が数多く展示されていました。

人形から浮世絵、書籍の挿絵などの日本人作家の作品だけではなく、
彼らに影響を与えた海外作家(ロセッティビアズリーなど)の作品もあります。

明るく美しいだけではない、
あやしい魅惑的な世界が好きな人にはたまらない展覧会です。

   特別展『あやしい絵』展
場所大阪会場 大阪歴史博物館
期間前期 2021年7月3日(土)〜7月26日(月)
後期 2021年7月28日(水)〜8月25日(日)
前期と後期で展示替え有
※開催内容は変更する場合がございます。
詳細は公式HPか施設へご確認をお願いします。

※展示室内は撮影不可でした。

必ず借りたい!
声優 平川大輔さんの音声ガイド

最近では音声ガイドに有名な俳優さんなどが起用されていますが、

この展覧会はなんと!?
『鬼滅の刃』の「魘夢」『ジョジョの奇妙な冒険』の「花京院典明の声を担当された、
平川大輔さんがナビゲートして下さいます。

アニメの声を聞いたことがある方は想像がつくかと思いますが、
優しいようで悪夢を見ているよな「あやしい声」が展覧会の内容にぴったりです。

そして「あやしい絵」には秘められたストーリーや謎があるので、
音声ガイドを聞きながらより絵と作家の世界観を知ることができます。

貸出料金  600円   
収録時間 約40分 

§ 怨念が込められた「あやしい浮世絵」

この展覧会のチラシなどを見ると女性の絵が中心的に紹介されているのですが、
一番の発見があったのは幕末の浮世絵かもしれません。

今まで浮世絵というと日常の光景や役者絵、風刺画などをよく目にしていました。
しかし今回の「あやしい浮世絵」に度肝を抜かれました。

歌川国芳『源頼光公館土蜘作妖怪圖』
展示期間:7/3〜8/2

歌川国芳というとお化けや妖怪など奇妙な浮世絵を描くことで有名ですが、
この浮世絵は世の怨念までも込められています。

歌川国芳『源頼光公館土蜘作妖怪圖』1843年,浅井コレクション, British Museum, Public domain, via Wikimedia Commons

3枚で構成されたこの絵の圧倒的な「妖怪の呪い」の迫力。
時代の政権によって去勢された民衆が
妖怪となって権力に襲いかかるシーンでもあるそうです。

漫画のような細かい妖怪の様々な出立ちやディティールに謎が隠されているようです。

月岡芳年の「血みどろ絵」

そして初めて見て驚いたのは「血みどろ絵」の浮世絵です。

今も昔も血生臭いシーンを見たい残したいという人間の性があるのでしょうか。
処刑される人などの血がしたたる浮世絵が展示されていました。

私は血生臭いのは苦手なのですが、
浮世絵の刷られたベタっとした血の赤が表現として面白いと思ました。

§ 文学で洗練された「あやしい挿絵」

「あやしい絵」が描かれた背景に、日本文学の変貌も関係しているようです。

既成概念を取り払った情欲や異世界を描く文学が書かれ、
その表紙や挿絵には文学に影響された絵が描かれていったのではないでしょうか。

藤島武二(装幀)/(ほう(与謝野)晶子『みだれ髪』
展示期間:通期

『みだれ髪』は教科書にも載る有名な歌集。
当時の本の実物を目の前で見れたことにも感動しました。

藤島武二(装幀)/鳳(与謝野)晶子『みだれ髪』1901年,明星大学,Public domain, via Wikimedia Commons

藤島武二の表紙デザインもアール・ヌーヴォーの影響からか、
おしゃれで可愛らしく女性心を今も当時も掴みそうですよね。

しかし、この歌集は妻帯者だった与謝野鉄幹への想いを詠んだものだったそうです。
植物のように渦巻く髪の毛は情念を表していたのかもしれません。

それも含めて美しく描く藤島武二は不思議な魅力を持つ画家ですね。

橘小夢たちばなこさめ安珍あんちん清姫きよひめ
展示期間:前期

大阪歴史博物館パネルの橘小夢『安珍と清姫(一部)』を撮影

不思議であやしい魅力を持つ画家といえば 橘小夢 は外せません。
今回展示されていた作品の中でも異彩を放っていました。

姫が僧侶に片想いをする『安珍・清姫伝説』
紙に墨とペンで細かく描かれているのですが、
女の憎愛が昇天するように描かれていて儚く美しい、刹那な作品です。

その他にも至極の橘小夢の作品が出展されいます。

▼美しくもあやしい橘小夢 必見作品▼

  • 『刺青』1923/1934 個人蔵
    (谷崎潤一郎の処女作『刺青しせい』が原案)
  • 『嫉妬』1918/1934個人蔵
    (『刈萱道心かるかやどうしん』が原案)

藤島武二もですが日本の文学書に描かれる絵は
海外の文学書の絵からの影響も大きいかと思います。

オーブリー・ヴィンセント・ビアズリー
オスカー・ワイルド『サロメ』より
「おまえの口に口づけしたよ、ヨナカーン」
展示期間:前期

「あやしい挿絵」といえばイギリスのビアズリー
私が学生時代に誕生日に『サロメ』の本を頂いて以来、惚れ込んでいる画家です。

Aubrey Beardsley, Public domain, via Wikimedia Commons

この絵を見た時は何が起こっているのかと絶句しました。
『サロメ』戯曲(演劇の台本)なので小説のように筋が通った物語があるわけではないのですが、世の果てのようなこの光景をどうやって演劇にしたのでしょうか。

本当にクール。クールとしか言いようがない作品です。
後期では挿絵(展示されている本のページ)も入れ替わるそうなので、
もう一度見に行きたいくらいです。

田中恭一『焦心』
展示期間:7/3〜7/19

田中恭一『焦心』,1914年,和歌山県立近代美術館,Public domain, via Wikimedia Commons

そして「あやしさ」とは他者に向けるものだけでなく、
自己にも潜むことを悟ったのが田中恭一の版画作品です。

萩原朔太郎の『月に吠える』の挿絵を描いた人ですが、
結核を患ったため、人と接することなく
自己の中で欲望を抱えて苦悩する様が作品に現れて怪しく光っていました。

初めて見た作家ですがとても心に刺さったので
所蔵の和歌山県立近代美術館にもまた訪れてみたいと思います。

御伽噺などで伝えれられてきた異世界の女性像「人魚」。
その妖しい魅力に取り憑かれた作家もいました。

水島爾保布『人魚の嘆き・魔術師』
前期:口絵、扉絵、挿絵 後期:挿絵

谷崎潤一郎『人魚の嘆き・魔術師』の絵を描いた水島爾保布
ビアズリーを思わせる人魚の曲線美にうっとりします。

鏑木清方『妖魚』
展示期間:通期

安易に見ていると、人魚に飲み込まれてしまいそうな迫力のある屏風絵です。

水島爾保布と同じく妖しく艶かしく人魚が描かれているのですが、
これは人魚が人を魅了し堕落させる凶兆とされていたからのようです。

泉鏡花の小説にも人魚は登場するのですが、
日本の文学と共にあやしい絵は育まれたことを知る素晴らしい展示でした。

§ 美人画からの境地「あやしい女性像」

大正時代は女性が容姿や家柄だけではなく、
個人の存在として主張しようという動きが見られた時代です。

“美人画はただの人でよくて
人間の内の

生命の突き上がる現れがあれば
それで良いものだと考えている。

北野常富

北野恒富『淀君』
展示期間:通期

美人画の大家が描く傑作とも言える、
大阪城落城前淀君の姿。

北野恒富『淀君』,1920年,耕三寺博物館

この世の者とは思えないすごい迫力で、
死と生の間に立つ凄みがあります。

美人画とは違った死人のような肌と目。
それと打って変わるように生き生きとした着物の絞りの質感。

これを見ずして
「あやしい絵」展は終われません。

因みに大阪展でしか味わえない醍醐味は、
博物館1階フロアの淀君の看板の背後に大阪城が見えることです。
粋な計らいですね。

北野恒富『道行』
展示期間:通期

大阪歴史博物館パネルの北野恒富『道行(一部)』を撮影

『淀君』よりも前に描かれた北野恒富の作品。
『心中天網島』が題材で、死にゆく男女の肌と目がまた死人のようで目が離せません。

写真は会場パネルですが実際の作品は屏風で、
男女の反対側にが2羽描かれています。

二人が行く先が地獄なのか、道案内をしてくれるのかもしれません。

▼必ず見ておきたい「あやしい女性像」作品▼

  • 島成園『無題』1918年 大阪市立美術館所蔵
    (女の存在を示した顔にアザのある自画像)
  • 上村松園『花がたみ』1915年 松伯美術館所蔵
    (美人画の巨匠が描く心を病んだ女の美しさ)

§ 心を虜にする「あやしい展覧会グッズ」

大満足の展覧会でしたが、いつまでも会場にいるわけにはいかないので
自宅でも「あやしい絵」を楽しめるグッズを購入ました。

東京展での前評判通り、
作品世界を活かした素敵なグッズがありました。

▼今回購入した「あやしい絵」展グッズ▼

  • 橘小夢『安珍と清姫』マスクケース
  • 水島爾保布『人魚の嘆き(貴公子)』うちわ
  • ビアズリー『サロメ』Wクリアファイル
  • 小村雪岱『川に投げ込まれたお初』エコバッグ

展覧会グッズを購入する時は、
原画とあまりにも大きさが違う印刷だと、
印象が変わってしまうので気をつけています。

図録も同じ視点で選びます。
印刷されているものや紙質も重要です。
あまりにもクリアだと現代より前の作品は、
原画の印象が保てない様な気がします。

▼原画を活かした水島爾保布の本▼

  • 『魔性の女挿絵集』/らんぷの本
  • 『人魚の嘆き・魔術師』谷崎潤一郎/春陽堂書店
    (初版の復刻版で、文体もそのままで時代感も味わえます。)

難波宮跡も見学できる大阪歴史博物館の常設展も併せておすすめ

本当に見応えがある作品たちと、惹きつけられる絵の魅力。
そして文学や時代背景に沿って展示される分かりやすさ。

いつの時代も人々を魅了する
「あやしさ」というアプローチが
多くの人を絵に惹きつけるきっかけにしてくれています。

後期も足を運びたいと思います。

感染症対策をしながらも
素晴らしい展覧会を開催してくださった
関係者の方々に感謝いたします🙏

   特別展『あやしい絵』展
場所大阪会場 大阪歴史博物館
期間前期 2021年7月3日(土)〜7月26日(月)
後期 2021年7月28日(水)〜8月25日(日)
前期と後期で展示替え有
※開催内容は変更する場合がございます。
詳細は公式HPか施設へご確認をお願いします。

※展示室内は撮影不可でした。


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