§ 概要
ブログで展覧会の感想を書いていますが、
むやみやたらに稚拙な感想を述べるのが恥ずかしくなる展覧会もあります。
それが日本の女性画の大家である上村松園が
生涯を通して創造してきた作品を集結させた展覧会「上村松園」展です。
『上村松園』展 | |
場所 | 会場 京都市立京セラ美術館 |
期間 | 前期 2021年7月17日(土)〜8月15日(日) 後期 2021年8月17日(水)〜9月12日(日) |
前期と後期で展示替え有。 | |
※開催内容は変更する場合がございます。 詳細は公式HPか施設へご確認をお願いします。 ※展示室内は撮影不可でした。 |
2020年にリニューアルした京都市立美術館が1周年記念として企画したのは、
館にとって約50年ぶりの京都を代表する画人・上村松園の単独展です。
彼女の作品はゆかりの「松伯美術館」や、
各地のコレクションで見てきましたが、今回の展覧会は特に素晴らしいです。
§ みどころ
- 個人コレクションも含めて100点余りの作品が集結。
- 初期から絶筆「初夏の夕」まで松園の生涯作品を目にできる。
- 違う年代に描かれた同じ題材の作品を比較して鑑賞できる。
- 謡曲が題材の妖艶な「花がたみ」と「焔」を同時に堪能できる。
- 100年ぶりに発見された幻の「清少納言」と対面できる。
- 後期では松園の理想の女性像とも言わした「序の舞」を拝める。
- 孫である上村淳之さんの語りが音声ガイドで聴ける。
などなど、みどころ盛りだくさんです。
前期の展示について私の拙い感想ですが紹介させていただきます。
§ 何度描いても松園の画 -「人生の花」
松園は一つの題材を探究して何作か描くことがあるのですが、
今回の展覧会ほど彼女の筆跡や追及を目にすることができる比較展示はないかと思います。
①「人生の花」1899年 – 「花ざかり」1899年
松園の代表作でもある花嫁と母親の姿を描いた美しい作品ですが、
華やかな花嫁帯が印象的な「人生の花」の横に
母と娘の表情を切り取ったように双軸にした「花ざかり」が展示されていました。
松園の絵の特徴は空間の使い方から物語を感じさせますが、
同じ年代に描かれた両作品からは違う緊張感が漂っていました。
②「花のにぎわい」1907-12年 – 「桜可里之図」1908年 – 「花見」1909年
桜のお花見が題材で傘を使った視覚効果と構図が独創的な作品です。
なんと今回は3作品を一挙に鑑賞することができました。
各年ごとに桜の表現の仕方や女性の顔立ちが変化して、より生き生きしています。
松園の中では模索していたかもしれませんが、
どれも素晴らしく全てが松園の言う「珠玉の絵」です。
§ 空間から生まれる想像 -「舞仕度」
今回の展覧会では掛け軸以外に屏風の作品も展示されていました。
松園の作品は屏風にも掛け軸にも表装できるように考えられています。
「舞仕度」1914年 前期展示のみ
右隻の談笑する女性たちの柔らかさ。
左隻の今から舞う女性の緊張の面持ち。
丁度、屏風の真ん中で空気の流れが変わるように見えます。
この作品は双軸の掛け軸でも描かれています。(今回展示なし)
屏風も掛け軸もですが、松園の空間の割き方は
観る側にそこでの会話や笑い声、音などを想像させます。
✴︎✴︎✴︎
今回、掛け軸と屏風の両作品が展示された「人形つかい」では、
より想像を働かせることができるかもしれません。
§ 女性は美しければよいわけではない -「焔」
松園は謡曲(能のうたい)を習っていたそうです。
謡曲の題材を元にしたこの世の者ではない女性を描いた作品は、
「女性の美しさとは何か」を考えさせられます。
「焔」1918年 前期展示のみ
高さ2メートル近くある大きな掛け軸に聳え立つ妖艶な女性。
兼ねてから観たかった松園の作品の中でも珍しい妖艶な絵です。
謡曲「葵の上」の愛に溺れた六条御息所が、
嫉妬に狂って生き霊となった姿をヒントとしているそうです。
顔は般若そのもので松園の描く女性の清澄なイメージとは真逆の様ですが、
不思議とおどろおどろしくも美しくも見えるのです。
描いた時の松園はスランプだったそうですが、
藤の花の着物に蜘蛛の巣を張り巡らせても尚、
美しく仕上げるところは「さすが」としか言いようがありません。
✴︎✴︎✴︎
「焔」が般若であるとしたら、
謡曲「花筐」の失恋で狂った照日前を描いた
「花がたみ」の女性像は感情を失った能面の様です。
しかしそこに儚さと危うい魅力が溢れています。
生き霊であれ、狂人であれ、
俗世を超越する美しさが存在するということを実感しました。
§ 描き続けること -「清少納言」
この展覧会の序盤に松園が20歳の時に描いた「清少納言」が展示されています。
それから月日が経って…
約20年後に描いた「清少納言」が、
100年の時を経て今回初公開されています。
横へと広がる御簾(すだれ)の線の流れを変えるように、
縦から繊細な黒髪と華やかな十二単の曲線美が流れています。
絵の中のリズム感に圧倒されます。
10代から描き続けても尚、生涯を通して追求し続ける姿勢に感服しました。
§ 生活から生まれる美学 -「母子」
今回の展覧会の音声ガイドでは声優さんのナレーションに加えて、
松園の孫である上村淳之さんの語りを聞くこともできます。
「母子」1934年 前期展示のみ
松園は日常を共に過ごす家族を観察して絵のモデルにされることもあったそうで、
淳之さんの語り曰く、こちらの絵は幼い頃の当人とお母様がモデルだそうです。
華やかな着物を纏った女性の美人画から、
日常生活の中で美しさを見出す風俗画へと
松園の視点が変わっていったように感じる展示です。
✴︎✴︎✴︎
子供がいる女性の眉を剃る風習が描かれた作品「青眉」は、
松園の母との思い出が反映された作品でもあります。
10代の作品から見てきて、ここで松園60歳。
自分にしか描けない、追憶も落とし込んだ絵の世界を確立したといえるのではないでしょうか。
§ 真・善・美 理想の女性 -「序の舞」
「その絵を見ていると邪念の起こらない、
『青眉抄』上村松園より
またよこしまな心を持っている人でも、
その絵に感化されて邪念が清められる…
といった絵こそ私の願うところのものである。」
「序の舞」1936年 後期展示のみ
こちらの絵は後期からの展示になるので拝見できませんでしたが、
松園にとって「理想の女性、最高のもの」と言える「女性の姿」が描けた作品だそうです。
あまりに凛とした姿に観る側の背筋も伸びます。
松園が望む「真・善・美の極地に達した本格的な美人画」ではないでしょうか。
§ 芸術を以って人を済度する -「初夏の夕」
100年ぶりに上村松園の個展を開催できた京セラ美術館(京都市立美術館)。
時代が変わっても消えることはない芸術家の魂があるからこそ実現できたと言えます。
館は松園の最終作、絶筆を所蔵しています。
「初夏の夕」1949年(絶筆) 通期展示
日本髪を結った凛とした女性の目線の先に蛍がいます。
時が止まった様な作品、蛍が命の光を灯し続けている様です。
松園の絵と向き合い続けた命の灯も生き続けて、現代の私達に届いています。
「芸術を以って人を済度する。
『青眉抄』上村松園より
これ位の自負を画家は持つべきである。」
松園の絵と画業からは美しさだけではなく、
多くを習うのです。
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『上村松園』展 | |
場所 | 会場 京都市立京セラ美術館 |
期間 | 前期 2021年7月17日(土)〜8月15日(日) 後期 2021年8月17日(水)〜9月12日(日) |
前期と後期で展示替え有。 | |
※開催内容は変更する場合がございます。 詳細は公式HPか施設へご確認をお願いします。 ※展示室内は撮影不可でした。 |
感染症対策をしながらも貴重な場を運営し続けて下さる方々に、感謝いたします🙏
参考資料:●『日経ポケットギャラリー上村松園』日本経済新聞社 1993
●『青眉抄』三彩社 1972