– ミュージアムとの思ひ出 –
新型コロナウィルスの影響でミュージアムは休館となり、展覧会の会期は変更されました。
自由に色々なところへ行けない状況だからこそ、ミュージアムで作品と出会い旅する気分を味わうことができる。
そのような人々の救いとなる展覧会が数多く開催されています。
何かのヒントになれば…と綴った、勝手きままな鑑賞小咄(ネタバレ有)。
§ 国立国際美術館
『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』
古くは美術品をコレクションできるのはお金と権力を持っている人たち。
そしてヨーロッパでは王室のコレクションなどを後の世になって公開しています。
「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」は、
イギリス初の国民の「心を豊かにする喜び」の為に1824年に創設された国立美術館です。
そんな遠いイギリスの美術館の西洋絵画コレクションの中から61点が、海外では世界で初めて大規模の展覧会として日本へやってきました。
『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』 | |
場所 | 東京 国立西洋美術館 大阪 国立国際美術館 |
期間 | 東京 2020年6月18日〜10月18日 終了 大阪 2020年11月3日〜2021年1月31日 終了 |
事前予約制 | |
※開催内容は変更する場合がございます。 詳細は公式HPか施設へご確認をお願いします。 |
国を超えて、過去から時空を超えて日本へ旅をしてきた絵画たち。
現代の私たちに何をもたらしてくれるのでしょうか。
§ 7つの章と8つの部屋で構成する400年
約2300点の作品を所蔵する「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」。
14世紀イタリア・ルネサンス期の絵画から、世界中の多くの人が知るゴッホなど
有名画家が揃う19世紀以降の近代美術まで、幅広い年代に渡るヨーロッパ各地の作品を収集されています。
大阪の国立国際美術館で開催された「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」展では、
400年以上に渡る様々な年代、国で描かれた作品たちを
§7つの章と🚪8つの部屋で構成して展示されていました。
宮殿を歩くように各章の部屋を巡り、
常に四方八方を名画に囲まれる贅沢な展示でした。
※銀行家ジョン・ジュリアス・アンガースタイン所有の
コレクションと邸宅の公開から始まった当時のナショナル・ギャラリーの様子/フレデリック・マッケンジー
時代も国も異なる作品がどのように展示されているか。
展覧会という特別な空間では、展示方法を見ることも楽しみの一つです。
§ 鮮明に引き継がれるルネサンス絵画
まず、ルネサンスというと14世紀のイタリアで始まった文化運動と認識しているのですが、つまるところ今から500年以上も前の話です。
しかしこの展覧会のイタリア・ルネサンス絵画は、
「色鮮やかで光沢があって輝いている。
500年以上も経っているようには思えない。」
見た瞬間の驚きがありました。
カルロ・クリヴェッリ
「聖エミディウスを伴う受胎告知」1486年
展示室の床から天井までの大きさがある作品。
その迫力と色彩の豊かさに飲み込まれそうになりました。
マリアがキリストを身籠ったことを知らせる「受胎告知」の場面です。
展示の照明の加減か、
絵画に施された表面保護の影響なのか、
絵の中の天空からマリアに差す光に合わせて絵画自体が輝いて見えました。
卵テンペラと油彩を組み合わせた絵画技法が用いられているようですが、
テンペラは色が褪せにくいようです。
だから経年変化が起こっていなのか…不思議なくらい鮮明な作品です。
漫画のように細かくコマ分けされた大天使や人物たちのシーン。
孔雀の羽から人物の髪の毛の一本一本までも描きこまれた緻密な描写。
近くで見つめていると作品の舞台となる町、
アスコリ・ピチェーノへ引き込まれそうになりました。
サンドロ・ボッティチェッリ
「聖ゼノビウス伝より初期の四画面」1500年頃
イタリア フィレンツェのウフィッツイ美術館で見て以来の、ボッティチェッリの作品とも出会えました。
左から右へ時の流れが進む、面白い作品です。
そしてこの絵もまた鮮明で、500年以上前の絵画がここまで残っているのは、絵画技法や素材以外に修復方法による可能性もあるかもしれません。
§ 今も生き続ける肖像画とオランダの光
今回の展覧会で特に楽しみにしていたのは、
オランダの画家レンブラントとフェルメールの作品です。
オランダ人画家の特徴なのか、
2人とも光の表現がとても美しいのです。
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン
「34歳の自画像」1640年
レンブラントは自画像を50作以上も描いたそうですが、今回展示された
「34歳の自画像」を見て震え上がりました。
適切ではないかもしれませんが、
「気味が悪い。」
と感じたのです。
まるでレンブラントが生きているようです。
朦朧と浮かび上がるレンブラントの肌、
そこで見ているかのような生々しい視線。
絵画の中の光の表現が絶妙なのか、
どうすればこのような生身に近い自画像が描けるのか分かりません。
「すぐれた画家や彫刻家は自分の『魂』を目に見える形にできる」
荒木 飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』 第74巻参照
と聞いたことがありますが…
レンブラントは自身の存在を後の世に残すことも考慮して、魂が宿る自画像を描き続けたのではないでしょうか。
ヨハネス・フェルメール
「ヴァージナルの前に座る若い女性」1670-72年頃
レンブラントの肖像画の生命力とは反対に、
フェルメールの「ヴァージナルの前に座る若い女性」は、儚くうつろう残り火のようでした。
フェルメールが残した作品数は多くないそうですが、この作品は晩年に描かれたようです。
※晩年といってもフェルメールは若くして亡くなったようです。
部屋や衣服などの柔らかな風合いと、憂いを帯びた女性。
儚い光がとても刹那的な作品です。
画中には様々なメッセージが込められているようですが、
それを感じさせない控えめでありながら美しい作品です。
§ 補足 – 地域による文化財の修復の違い
以前、文化財の修復士の方から
「日本の文化財は経年変化も作品の一部とする。」
考え方で修復していると聞いたことがあります。
日本の国宝や文化財などに歴史の流れを感じる理由かもしれません。
「わびさびの文化」とも言えます。
「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」では
油彩の変色を防ぐ為に「完全洗浄」という、
色彩と光沢を出す表面の塗料を完全に洗い流す修復がされているという話もあります。
修復理念や詳細は分かりませんが、
経年変化していない鮮明な絵画を見ていると、
歴史の流れよりもその時代にタイムスリップした感覚になりました。
色々な地域のコレクションと出会うことで、
人々の文化や考え方の違いを知る。
展覧会の面白みでもあります。
これからのアーティストは、
作品と展示方法以外にも世界と未来に向けた、
修復希望方法を残すことになるかもしれませんね。
参考:●森絵画修復工房 https://shuufuku.com/column/mori-column/vol6/
●『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展ミニカタログ』読売新聞東京本社
▼ 後編はこちらから ▼
『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』
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https://maruyodo.jp/